子どもの矯正治療で行われる歯列拡大治療

矯正治療は、歯並びを気になさる方が多く受診されますが、矯正治療の対象となる歯列不正(しれつふせい:悪い歯並び)の一つに、歯並びがでこぼことした叢生(そうせい)があります。

 
叢生


叢生の原因は、歯の横幅の合計値と、歯が並ぶ顎の大きさのバランスがとれていないことです。そのため、叢生の解消には、顎の大きさを大きくするか、歯の横幅の合計値を小さくするかのどちらかが必要になります。

 

大人では歯の横幅の合計値を小さくするしか方法がありませんが、子どもの場合は、顎の成長を利用して、顎の大きさを大きくするという選択肢もあります。

 

これが歯列拡大治療です。今回は、子どもの矯正治療で行われる歯列拡大治療についてお話しします。

小児矯正と歯列拡大治療

小児矯正と歯列拡大治療
 

歯列拡大治療とは、文字通り歯並びを広げる治療です。歯並びを全体的に広くすることで、歯をきれいに並べられるように矯正していきます。

 

小児矯正では、個々の成長発育の状態に合わせた治療が大切です。具体的には、子どもの歯の状態に合わせ、第1期治療第2期治療の二段階に分けて矯正治療が進められます。

第1期治療

第1期治療は、乳歯から永久歯へと歯並びが変わりつつある時期の混合歯列期(こんごうしれつき)を対象とした矯正治療です。目安としては6歳~12歳頃までで、この時期は乳歯と永久歯が混在しています。

 

この時期の特徴は、全身の成長発育がとても活発であるという点です。そのため、成長発育を利用した矯正治療が行われるのですが、成長発育を利用する矯正治療は第1期治療ならではの特徴で、この時期を逃すと難しくなります。

 

今回のテーマである歯列拡大治療が行われるのは、この第1期治療になります。

第2期治療

第2期治療は、乳歯が全て抜けて永久歯に生え変わった永久歯列期(えいきゅうしれつき)を対象とした矯正治療です。第2期治療では歯列拡大治療はあまり行われません。

 

第2期治療では、歯の横幅の合計値を小さくする方法が選ばれることが多くなります。具体的には、歯の隣接面(隣の歯と触れ合っている面)を薄く一層削り、歯の横幅を小さくするディスキング(IPR:inter-proximal reductionやストリッピングとも呼ばれます)という処置や、大人でもしばしば行われる抜歯を行います。

歯列拡大治療の特徴

歯列拡大治療の特徴について、メリットとデメリットに分けてご説明しましょう。

 
歯列拡大治療のメリットとデメリット
 

メリットとしては、歯を収めるスペースが確保できるので、将来的に抜歯をせずに歯並びを整えられる可能性が高くなることが挙げられます(絶対に抜歯しないわけではありません)。

 

また、歯を余裕を持って収められるようになることで、歯を支えている歯槽骨(しそうこつ)などの歯周組織に、過度な負担がかからないようになります。

 

反面、デメリットとして、歯を収めるスペースを確保するために過度に広げすぎると、上下の歯が噛み合わない開咬(かいこう:オープンバイト)や、鋏状咬合(はさみじょうこうごう:シザーズバイト)などの歯列不正を引き起こす可能性があります。

拡大装置の種類

拡大装置の種類
 

歯列拡大治療に使う矯正装置を拡大装置といいます。拡大装置は、形や使い方の違いから2タイプに分けられます。

固定式拡大装置

固定式拡大装置は、歯に接着して止めるタイプの拡大装置です。このタイプは、拡大スピードが速いのが利点ですが、違和感が大きい・食べ物が引っかかりやすいなどの難点もあります。

可撤式(かてつしき)拡大装置

可撤式拡大装置は、ご自身で取り外しできるタイプの拡大装置です。拡大床(かくだいしょう)とも呼ばれます。

 

取り外しができるので、食事や歯磨きなどの日常生活に影響しにくいのが利点です。痛みや違和感の小ささから使えない子どももほとんどいません。ただし、拡大のスピードは速くなく、プラスチックで作られている部分が破損するリスクなどもあります。

歯の動き方と拡大装置

歯の動き方と拡大装置
 

歯列拡大治療で忘れてはいけないのが、歯の動き方です。歯の動き方と一言で言っても、実は2タイプあります。並行にそのまま水平に移動する歯体移動(したいいどう)と、傾きながら移動する傾斜移動(けいしゃいどう)です。

 

歯をきれいに並べるに当たって理想的なのは歯体移動の方ですが、歯列拡大の方法によっては傾斜移動になることもあります。

 

傾斜移動の難点は、移動距離が大きくなればなるほど、歯の傾きが目立つことです。このため、歯の移動距離が大きい症例では、傾斜移動は避けた方が良いとされています。

拡大装置別の歯の動き方

拡大装置と歯の動き方
 

固定式の拡大装置を使うと、歯の動き方は、歯体移動が可能で水平に動かしやすくなります。一方、可撤式拡大装置を使うと、歯は外側に向かって傾くため、傾斜移動になりがちです。

 

拡大装置によって、歯の動き方に違いがありますので、そこをしっかりと押さえて治療を進めなければなりません。

拡大量の限界

歯列拡大治療を使えば、いくらでも歯並びを広くできるのかというと、そうではありません。拡大量には限界があります。

 
上顎間縫合
 

拡大量の限界を決めるのも歯の動き方です。上顎の場合、縫合(ほうごう)という上顎骨のつなぎ目があるので、固定式拡大装置を使って縫合部から広げれば、歯を水平方向に、すなわち歯体移動で歯を動かしやすくなります。

 

下顎の場合は、縫合はありません。固定式拡大装置を使っても、上顎ほど歯を水平に動かすのは困難で、傾斜移動になることが多くなります。

 

傾斜移動をしすぎると、歯が傾きすぎて歯並びが悪くなることもあります。歯の動き方が、拡大治療の限界に大きく関係しているのです。

歯列拡大治療の注意点

歯列拡大治療の注意点
 

冒頭でお伝えしたとおり、歯列拡大治療は、歯を収めるスペースを広げて確保するための治療です。ただし、絶対に抜歯をせずに、歯をきれいに並べられるかというと、必ずしもそうではありません。

 

歯列拡大治療を受けた後、抜歯するのでは意味がないと思う方もいらっしゃるかもしれませんね。しかし、もし抜歯を避けようと過度に広げすぎると、歯の周囲の骨が吸収されて減ってしまったり、歯肉が下がってしまったりする可能性があります。こうなると、歯の寿命そのものが短くなってしまうのです。

 

正しい歯列拡大治療で、歯を余裕を持って並べられるようにすると、歯を支える骨などの周囲組織の健康が保たれ、歯の寿命にも良い影響が出ます。

 

歯列拡大治療を受ける場合は、歯を収めるスペースの確保ばかりに目を向けるのではなく、限界を理解し、歯を支える周囲組織の健康という視点も忘れないようにしなくてはなりません。

小児矯正もポラリス歯科・矯正歯科に

今回は、子どもの矯正治療での歯列拡大治療についてお話ししました。再度まとめますと、歯列拡大治療は、歯に接着する固定式拡大装置や、取り外しできる可撤式拡大装置などを使って、歯を収めるスペースを広げる治療です。

 

将来の歯並びをきれいにする優れた治療法ですが、広げ過ぎるとかえって歯並びが悪くなるリスクもあります。ポラリス歯科・矯正歯科は、最新の設備と確かな技術に基づいた小児矯正をご提供します。今回お伝えした歯列拡大治療にご興味のある方は、当院でぜひご相談ください。