メンタル不調とお口の健康の意外な関係

メンタル不調とお口の健康の意外な関係
 

「なんだか最近、気分がふさぎがちで、歯茎の調子も悪い気がする」…そんな風に感じている方はいらっしゃいませんか?

 

メンタル面と口腔内の状況は一見無関係のように思えるかもしれません。しかし、実は気持ちが落ち込むと、お口の中にも変化が現れることが最新の研究で少しずつ明らかになってきました。

 

今回は、うつやストレスといった心の不調と口腔内細菌の意外な関係について解説します。

お口の中に存在する数百億個もの細菌

お口の中に存在する数百億個もの細菌
 

私たちの口の中には、数百種類、数百億個以上もの細菌が生息しているのをご存じでしょうか。

 

体に良い影響を与える善玉菌虫歯歯周病の原因となる悪玉菌、そして普段はどちらでもないものの優勢な方に味方をする日和見菌が存在しており、歯の表面や舌、歯周ポケットなど、それぞれの場所で共存しています。

 

これらの細菌の集まりは、口腔内フローラ口腔マイクロバイオームと呼ばれ、絶妙なバランスを保ちながら生態系を形成しています。

口腔内フローラのバランスが崩れると…

口腔内フローラ,口腔マイクロバイオーム
 

しかし、歯磨き不足や生活習慣の乱れなどによって悪玉菌が増え、口腔内フローラのバランスが崩れると、歯茎などに炎症が起こりやすくなってきます。

 

軽視してはいけないのは、この炎症がお口の中だけで終わるとは限らないということです。例えば歯周病が進行すると、歯茎の血管から細菌や毒素が体内へ侵入してしまうことがあり、それが血流に乗って全身を巡り、体の様々な場所で炎症を引き起こすケースもあるのです。

オーラル–ガット–ブレイン軸

オーラル–ガット–ブレイン軸
 

このように口内細菌が全身的な影響をもたらすことから、近年では口腔–腸–脳のつながり(オーラル–ガット–ブレイン軸:Oral-Gut-Brain Axisという考え方が注目されており、口から入ったものが腸内環境を介して、最終的に脳の働きや心の健康にまで影響を及ぼす可能性があると考えられています。

 

参考:Oral-Gut-Brain Axis in Experimental Models of Periodontitis: Associating Gut Dysbiosis With Neurodegenerative Diseases

気分が晴れないのはお口のせい?心と菌のつながり

アメリカの国民健康栄養調査(NHANES:National Health and Nutrition Examination Survey)で、1万5000人以上を対象に、口の中の細菌の種類がどれくらい多いか(これを細菌の多様性といいます)と、うつ症状の関係が調べられました。すると、大変興味深いことが分かってきたのです。

口腔内細菌の種類が少ない人ほどうつ症状が強い

口腔内細菌の種類が少ない人ほどうつ症状が強い
 

研究の結果、口腔内細菌の種類が少ない人ほど、うつ症状が強く出る傾向があることが明らかになりました。

 

この研究では、喫煙やアルコールの摂取、日頃の歯科ケアの状態なども、細菌の多様性とうつの関連性に影響を与えている可能性が示されています。

精神症状と特定の細菌の種類・数の関係

メンタルに不調を抱える方たちの唾液内では、特定の細菌が増えたり、逆に減少したりしていることが判明
 

別の研究では、うつや心的外傷後ストレス障害(PTSD)、不安障害の症状がある人の唾液中の細菌を詳しく分析しました。すると、メンタルに不調を抱える方たちの唾液内では、特定の細菌が増えたり、逆に減少したりしていることが判明したのです。

 

少し専門的になりますが、列挙しておきましょう。

  • うつやPTSDの症状が強い人では、Prevotella histicolaという細菌が増え、Haemophilus sputorumが減っている傾向がある。
  • 不安障害と診断された人では、Neisseria elongataという細菌が少なく、Oribacterium asaccharolyticumが多いという違いが確認された。

若年層を対象とした別の研究でも、うつ症状がある人は、健康な人と比べて口腔内細菌の構成が異なることが分かっており、特定の菌(Neisseria 属や Prevotella nigrescens など)が多いグループがいると報告されています。

「心」と「口」が関わるメカニズム

若干難しい話が続いたので、ここからは、なぜ心の状態とお口の細菌は関連し、互いに影響を及ぼし合うのかというメカニズムについて、順を追ってお話ししていきましょう。

生活習慣の乱れが口腔環境に影響

生活習慣の乱れが口腔環境に影響
 

気分が落ち込んだり、強いストレスを感じたりすると、心身の活力が低下し、どうしても生活習慣が乱れがちになります。すると、以下のような変化が出てきます。

口腔ケアがおろそかになる

歯磨きをするのが億劫になったり、丁寧に磨けなくなったりして、お口の中で悪玉菌が繁殖しやすい環境が作られてしまいます。

食生活が偏りがちに

甘いものや加工食品の摂取が増え、野菜や発酵食品が不足することで、口腔内細菌だけでなく腸内細菌のバランスまで崩れてしまうようになります。

 

こうした不規則な生活習慣は、お口の中の細菌の多様性を低下させたり、悪玉菌を増やしたりする原因になる可能性があります。

口腔内の炎症が全身に波及し、脳にも影響

口腔内の炎症が全身に波及し、脳にも影響
 

お口の中で細菌バランスが崩れ、特に歯周病菌などが増殖すると、歯茎に炎症が起きます。この炎症が進行すると、体を守る免疫システムから炎症性サイトカインという物質が過剰に作られるようになります。

 

口腔内フローラのくだりで触れましたが、この炎症性サイトカインが血流に乗って全身を巡ると、体の様々な場所で新たな炎症を引き起こし、これが脳にまで影響を及ぼす可能性があります。

 

この一連の作用により、脳内で気分や感情を調整する神経伝達物質のバランスが乱れ、うつ症状や倦怠感につながるという炎症性うつの仮説も提唱されるようになりました。

口から腸へ、そして脳へ(オーラル–ガット–ブレイン軸)

口から腸へ、そして脳へ(オーラル–ガット–ブレイン軸)
 

私たちの口は消化管の最初の入り口です。お口の中で増えた悪玉菌が唾液と一緒に飲み込まれることで、腸内フローラや腸のバリア機能に悪影響を与えることがあります。

 

腸は「第二の脳」とも呼ばれ、心の健康に関わる神経伝達物質(セロトニンなど)の多くが腸で作られますが、悪玉菌の影響で腸内環境が悪化すると、このセロトニンの生成や働きが妨げられてしまう可能性が出てきます。

 

このように神経伝達物質の作用がスムーズでなくなると、やがてメンタルヘルスにも影響し、気分が落ち込んだり、感情が不安定になったりすることもあり得るのです。

 

「お口の状態が腸内環境を介して脳の機能や心の健康にまで影響を及ぼす」というのがお分かりいただけるでしょうか。この考え方が、先述の口腔–腸–脳のつながり(オーラル–ガット–ブレイン軸)につながります。

お口と心の健康のために、今日からできること

診断と専門的なケアが重要である一方、日々ご自身で行うケアも大切です。ただし、心が疲れている時に「完璧にやらなくてはいけない」と考える必要はありません。まずは一つでも、無理なくできることから始めてみましょう。

食生活を見直す

お口と心の健康のために、今日からできること:食生活を見直す
 

野菜、果物、全粒穀物、発酵食品を積極的に摂りましょう。これらは善玉菌を応援する環境を整えてくれます。甘いジュースを水やお茶に変えるだけでも、悪玉菌の増殖を抑えられます。

丁寧な口腔ケアを習慣に

お口と心の健康のために、今日からできること:丁寧な口腔ケアを習慣に
 

毎日の歯磨きに加えて、歯間ブラシやデンタルフロスも併用し、歯と歯の間もきれいにしましょう。舌苔(舌の表面の汚れ)のケアも口腔内細菌のバランスを整えるのに役立ちます。外出先などで歯磨きが難しい時は、殺菌成分の入った洗口液でうがいをするだけでも構いません。

 

また、ご自身での口腔ケアに加え、歯科医院での定期健診で、口腔内の炎症や歯周病がないかチェックしてもらうことも大切です。

ストレスを上手に管理する

お口と心の健康のために、今日からできること:ストレスを上手に管理する
 

十分な睡眠を取る、軽い運動をする、趣味の時間を持つなど、気分をリフレッシュできる習慣を取り入れましょう。

 

深呼吸を3回する、好きな音楽を1曲聴くなど、少しの時間でもできるリラックス方法を見つけておくと、心の負担が少し軽くなるかもしれません。

お口と心は、つながっている

お口と心は、つながっている
 

今回は、うつやストレスなどのメンタル不調と、口腔内細菌の関係について解説しました。お伝えしたように、口腔内の細菌バランスの乱れは、生活習慣の乱れや全身の炎症、さらには腸内環境を介して脳機能にまで影響を及ぼす可能性があります。

 

口腔内の細菌は、あなたの心の健康を映し出す『鏡』かもしれません。毎日のちょっとしたケアが、心とお口の両方の健康につながります。

 

もし「最近元気が出ないな」と感じているなら、まずは歯磨きを少し丁寧にしてみる、食事に発酵食品を加えてみるなど、ご自身ができることから始めてみましょう。

 

ポラリス歯科・矯正歯科は、豊富な知識と経験を持つ医療法人社団 千仁会の専門医が多数在籍し、お口の健康を通じて、患者さんが心身ともに豊かな日々を過ごせるよう、丁寧なサポートをご提供いたします。

 

もしお口の状態に不安があったり、専門的なチェックを受けたいとお考えの方は、一人で抱え込まず、札幌駅すぐそばのポラリス歯科・矯正歯科にお気軽にご相談ください。