歯の治療全般
気になる唇の乾燥…ついつい舌で舐めていませんか?

寒い時期となり、風邪やインフルエンザが全国的に流行しています。北海道感染情報センターのデータを見ても、2025年11月現在の札幌のインフルエンザ感染状況は警報レベルです。皆さんも十分気をつけてくださいね。
さて、そんな時期になると、「リップクリームを塗っても、すぐに唇の皮がむけてくる」「乾燥が気になって、つい舌で唇を舐めてしまう」…こういったお悩みが増えてきます。
お気持ちは十分わかるのですが、もし、「唇を舐めた瞬間はしっとりした気がしても、少し経つと唇が前よりもっと乾燥して、ひどいときにはヒリヒリ痛んでしまう」…とお感じになるなら、原因はその唇を舌で舐める癖にあるかもしれません。
実は、唇を舌で舐める癖があると、唾液の蒸発が唇の水分を奪い、さらに唾液中の酵素がバリア機能を壊すことで、乾燥をより悪化させてしまうのです。
ポラリス歯科・矯正歯科でも、患者さんよりご相談を受けることが多いので、今回は、唇を舐めることで乾燥がひどくなってしまうメカニズムや口腔環境との関係、正しい保湿ケア方法などについて解説します。
なぜ唇は乾燥しやすいのか
そもそも、なぜ唇は顔の他の部分と比べてこんなにも乾燥しやすいのでしょうか。唇は体の他の皮膚とは構造が異なり、乾燥しやすい特徴を持っています。
唇には皮脂腺や汗腺がほとんどない

私たちの肌は、表面にある皮脂腺から分泌される皮脂と、汗腺から出る汗が混ざり合ってできる皮脂膜という天然の保湿クリームで覆われています。この皮脂膜がバリアとなって、水分の蒸発を防ぎ、外部の刺激から肌を守ってくれているのです。
しかし、唇には皮脂腺や汗腺がほとんどなく、自らの力で水分を保持しにくい部位になります。そのため、少しの乾燥や刺激でもひび割れや皮むけが起きやすくなるのです。
角質層が薄く、水分保持機能が弱い

唇の表面は角質層が非常に薄く、外からの刺激をブロックするバリア機能も弱めです。このため、乾燥した空気や摩擦などの外的刺激を受けやすく、水分が蒸発しやすい構造になっています。
口呼吸・摩擦・紫外線などの外的要因

これらの構造的な弱さに加え、さまざまな要因が唇の乾燥に追い打ちをかけることになります。
| 口呼吸 | 鼻ではなく口で呼吸する癖があると、常に乾いた空気が唇に直接あたり、乾燥を加速させます。 |
|---|---|
| 摩擦 | マスクの着脱、食べ物や飲み物、ティッシュで口を拭く際の摩擦も、薄い角質層を傷つける原因になります。 |
| 紫外線 | 紫外線は、唇の乾燥やシミ、シワも引き起こします。唇は日焼け止めを塗り忘れがちな部分なので注意が必要です。 |
| 食生活の乱れ | 皮膚や粘膜の健康を保つビタミンB群の不足も、唇の荒れにつながることがあります。 |
このように、唇はもともと乾燥しやすく無防備な状態であり、そこに「舐める」という行為が加わることでより悪化してしまうのです。
舌で舐めると乾燥が進む理由
冒頭でも触れたように、乾燥を感じたときに「舌で唇を舐める」と、一瞬しっとりした感覚になります。しかし、その後に待っているのは、さらに強い乾燥です。
唾液の水分はすぐ蒸発し、逆に水分を奪う

唾液の大部分は水分でできています。その水分が唇の上に残ると、一時的に潤ったように感じますが、唇内部の水分も一緒に奪われるため、結果的に乾燥が悪化します。これが「舐めるほど乾く」メカニズムです。
唾液中の酵素が唇の角質を分解してしまう

唾液には、食べ物の消化を助けるためのアミラーゼやリパーゼといった消化酵素が含まれています。
本来、胃の中で働くはずのこれらの酵素が、デリケートな唇の表面に付着すると、角質層を分解し、バリア機能を破壊してしまうことがあります。
繰り返すとに舌なめ皮膚炎に発展することも

唇を舌で舐めることを繰り返すと、唇が赤くただれたり、皮がめくれたりする舌なめ皮膚炎(lick dermatitis:なめ癖性口唇炎、口なめ病)に発展することがあります。
ここまで症状が進行すると、セルフケアだけでの改善は難しくなります。リップクリームを塗っても治らない、痛みが強いといった場合は、早めに専門医に相談することが重要です。
歯科的に見る「唇の乾燥」と口腔環境の関係
唇の乾燥は、単に外側の問題ではなく口の中の環境とも深く関係しています。
口呼吸による乾燥と唇のひび割れ

これまでも多くのコラムで取り上げてきたように、口呼吸の習慣があると、歯茎や舌など、口腔内の環境に、乾燥をはじめとした様々な悪影響が出てきます。
唇に対しても、口呼吸をしていると、乾いた空気が直接唇に当たり、バリアが破壊されやすくなるため、ひび割れや炎症が起きやすくなってしまいます。
朝起きたときに喉がカラカラだったり、口の中がネバネバしたりする方は、寝ている間に口呼吸になっている可能性があるので注意してください。
鼻詰まりや歯並びが原因で口呼吸になっているケースも考えられるため、気になる場合は歯科医院に相談しましょう。
唾液分泌量が減るドライマウスの影響

加齢や薬の副作用、ストレスなどにより唾液が減ると、口の中が乾きやすくなります。唾液は粘膜を保護する働きもあるため、唾液の分泌量が少ない状態では、ドライマウス(お口の乾燥症)や口角炎を起こしやすくなります。
矯正器具や入れ歯による摩擦刺激

矯正治療中のワイヤーやブラケット、合わなくなった入れ歯などが唇の内側に当たることで、常に摩擦刺激が加わり、乾燥や荒れを悪化させることがあります。心当たりがある場合は、かかりつけの歯科医院で調整してもらいましょう。
正しいケア方法と習慣改善
唇の乾燥は、「舐める」よりも「守る」ことで改善できます。
舌で舐めないよう“意識”を変えるコツ

乾燥が気になるときは、乾燥する季節は、お口の保湿も忘れずにのコラムでもお話ししたように、リップクリームやワセリンを塗る習慣をつけましょう。
また、ストレスや癖で無意識に舐めてしまう方は、手鏡で確認したり、他の動作に置き換える(深呼吸する、飲み物を少し口に含むなど)といった方法も効果的です。
保湿剤(ワセリン・セラミド配合)でバリア機能を補う

保湿剤には、唇の表面を保護して水分の蒸発を防ぐ役割があります。上述のワセリンやセラミド配合のリップクリームは、薬機法で定める化粧品・医薬部外品の範囲で使用可能な保湿成分です。
刺激の少ない製品を選び、食後や就寝前にこまめに塗るのがおすすめです。
加湿・水分摂取・鼻呼吸の習慣を身につける

室内が乾燥すると唇の乾きも進みます。加湿器を使い、1日を通して乾燥しない環境を作ることも大切です。また、鼻呼吸を意識することで、唇や口腔内の乾燥を防ぎやすくなります。
歯科・皮膚科に相談すべきタイミング

セルフケアを続けても改善しない、または以下のような症状がある場合は、先述の舌なめ皮膚炎(なめ癖性口唇炎、口なめ病)や口角炎、ドライマウスが関係していることもあります。症状が続くときは、歯科または皮膚科を受診しましょう。
- 唇のひび割れが長引く
- 出血や痛みが強い
- 唇の周りに赤みや湿疹がある
皮膚自体のトラブルは皮膚科の領域ですが、お口の環境に原因が考えられる場合は、歯科医師が専門的な視点からアドバイスできます。症状が長引くときは、一人で悩まず専門医を受診してください。
唇の乾燥は「舐める」から「守る」ケアへ

唇が乾燥したとき、つい舌で舐めてしまうのは仕方のない癖かもしれません。しかし、その行動が、乾燥→舐める→さらに乾燥…という循環を生み出し、唇の状態を悪化させてしまうことを、ぜひ覚えておいてください。
唇の乾燥対策の基本は、とてもシンプルです。
- 乾燥を感じたら、舐める前にリップクリームを塗る。
- ワセリンやセラミド配合の保湿剤で、唇のバリア機能を守る。
- 口呼吸の癖を見直し、唇の乾燥を防ぐ。
今日からこの3点を意識するだけでも、唇の状態は変わってくるでしょう。ポラリス歯科・矯正歯科では、唇の乾燥のお悩みはもちろん、その背景にある口腔環境のチェックや改善指導も行っています。
もし口呼吸やドライマウスといった根本的な原因に心当たりがある場合は、札幌駅すぐそばのポラリス歯科・矯正歯科にどうぞお気軽にお問い合わせください。
参考文献
- 2022年 口腔乾燥症の新分類(日本口腔内科学会・日本歯科薬物療法学会・日本老年歯科医学会・日本口腔ケア学会)





