歯の治療全般
歯科治療の際、水しぶきが顔や服に飛んで気になる方へ

「治療中に顔へ水しぶきがかかって、メイクが崩れてしまった…」
「服の首元が濡れて、なんだか気になってしまった」
歯科治療で、こんな経験をされた方はいらっしゃいませんか?
小さなことのように思えても、こうした不快感が積み重なると、歯医者さんへの足が遠のく原因になりかねません。特に、歯科治療中に、お口に水が溜まるのが苦手な方へのコラムで触れたように、水が喉に流れてむせてしまった経験があると、「また苦しくなったらどうしよう」と不安になりますよね。
実は、歯科治療で水しぶきが出るのには理由があり、対策もあります。今回は、水しぶきが飛んでしまう理由と、歯科医院側の工夫、患者さん自身ができる準備や心構えを紹介します。
なぜ水しぶきが飛ぶのか?
水しぶきが出る理由がわかると、対処のイメージが持てます。
高速回転の器具から冷却水が出ている

虫歯治療などで歯を削る器具であるタービンは、1分間に数十万回という、目に見えないほどの超高速で回転しています。この時、歯との摩擦でかなりの高熱が発生します。
もし水をかけずに削り続けると、歯の神経が熱でダメージを受けてしまい、治療後に強い痛みが出る原因になりかねません。
そのため、熱を瞬時に冷やす目的で水が噴射されます。また、この水は歯の削りカスをきれいに洗い流すという役割もあります。この冷却水と削りカスが、高速回転が生み出す風圧で霧状になり、水しぶき(エアロゾル)として周囲に飛び散るのです。
口腔内バキュームの位置や角度が影響している

治療中はバキュームと呼ばれる吸引器具で水や唾液を吸い取りながら進めます。しかし、治療する場所や器具の動きに合わせて、常にベストな位置にバキュームを保つのは技術が求められます。
バキュームの位置が少しずれたり、角度が変わったりするだけで、吸い残した水が水しぶきとなって外に飛び出してしまうのです。
ただ、近年では、この口腔内バキュームに加え、お口の外側から掃除機のように飛沫を吸い込む口腔外バキュームを併用している歯科医院が増えてきました。器具のすぐそばだけでなく、周囲の空気中に舞うしぶきも抑えられ、不快感の軽減につなげています。
治療部位や器具によって飛散量が変わる

水しぶきの飛び方は、治療する歯の場所や使う器具によっても変わります。例えば、見やすい前歯の治療はバキュームを合わせやすい一方、角度によっては水が唇側からお顔の方へ飛びやすくなります。
逆に奥歯の治療は、器具が口の奥深くに入るため、水が頬や口角から外に漏れやすくなる傾向があります。また、歯石を取る超音波スケーラーという器具は、細かい振動と水で歯石を弾き飛ばすため、広範囲に水しぶきが飛びやすい特徴があります。
「どうして自分の治療の時は飛ぶのだろう」と感じても、実は使用器具や治療部位の違いによるものであることも多いのです。
歯科医院での水しぶき対策
患者さんが少しでも快適に治療を受けられるよう、歯科医院側でも水しぶきを抑えるための工夫を重ねています。もし気になることがあれば、遠慮なくかかりつけの歯科医院で伝えてみてください。
アシスタントのサポート強化

口腔内バキュームを正しい位置に保ち、さらに口腔外バキュームを併用することで飛沫の拡散を減らすことができます。
また、歯科衛生士やアシスタントが器具の近くでバキューム操作を行うことで、患者さんへ水しぶきが飛ぶことを少なくできます。
タオルやガーゼの使用

お顔や胸元にタオルをかけるのは、水しぶき対策の基本的な配慮です。治療が始まる前に「タオルをおかけしますね」と、胸元にエプロンとタオルを着けてもらった経験は、ほとんどの方があるでしょう。
さらに、お顔の周り、特に口の横にタオルを折りたたんで添えることで、頬を伝う水滴や口角から漏れる水をしっかりとガードします。歯科医院によっては使い捨ての専用カバーを用意している場合もあります。
ゴーグルやアイガードの提供

一部の歯科医院では、患者さん用の保護ゴーグルやフェイスシールドを用意しています。目は非常にデリケートな器官なので、万が一、歯の削りカスや薬剤を含んだ水しぶきが目に入るのを防ぐため、安全対策の一環として提供される場合があります。
治療中に、透明な大きなメガネのようなものをかけるよう勧められた方もいらっしゃるかもしれませんね。目を保護する目的はもちろんですが、コンタクトレンズを使用している方やドライアイが気になる方にとっては、水しぶきによる目の不快感を防ぐというメリットもあるのです。
患者さん側ができる工夫
歯科医院の対策に加えて、患者さんご自身でできるちょっとした準備や心構えで、治療中のストレスは軽くなります。
治療前に「水しぶきが苦手」と伝える

受付や診療前のカウンセリングで一言添えるだけで、吸引の位置調整、タオル追加、チェア角度の配慮等がしてもらいやすくなります。
また、苦しくなったら左手を挙げるなど、あらかじめ中断の合図を決めておくのも安心して治療を受けるための良い方法です。
服装や化粧を工夫する

「お気に入りのブラウスが汚れたらどうしよう」「せっかくのアイメイクが崩れたら…」という心配事が、治療への緊張感を余計に高めてしまうことがあります。あらかじめ対策をしておくことで、余計な心配をせずに治療に集中できます。
歯科治療の際は、シミが目立ちにくい色の服や、万が一濡れてしまっても気にならないカジュアルな服装を選ぶのがおすすめです。メイクも控えめにしておいた方が良いでしょう。
また、長い髪はサイドで軽くまとめておくと、お顔周りのタオルがかけやすく、髪が濡れるのも防げます。歯科医院へ行く時の服装や髪形については、改めて解説!歯科医院へ行く時の正しい準備って?のコラムで詳しく解説しておりますので、併せてご参照ください。
マスクやハンカチを持参する

治療後すぐに顔を拭けるように、ハンカチやタオルを持参しておくと便利です。
マスクを着けている方は、治療後に新しいものに替えられるよう、予備のマスクを持っていくのもおすすめです。水しぶきで不快になったときも、すぐにリフレッシュできます。
鼻呼吸を意識する

治療中は、できるだけ「鼻で呼吸する」ことを意識してみてください。
緊張するとつい口で呼吸してしまいがちですが、歯科治療中に、お口に水が溜まるのが苦手な方へのコラムでお話ししたように、口呼吸はお口に溜まった水が喉の奥に流れ込みやすく、むせたり苦しくなったりする原因になります。
もちろん、鼻炎などで鼻が詰まっている場合は無理は禁物です。その際は正直にスタッフに伝え、こまめに休憩を挟んでもらうなどの対応をお願いしましょう。
自宅で練習する
水への苦手意識が特に強い方は、ご自宅で簡単な練習をしてみるのも一つの手です。「口に水が溜まる」という状況に少しずつ体を慣らしておくことで、本番の治療での緊張やパニックを和らげる効果が期待できます。
例えば、お風呂や洗面所で、コップに含んだ少量の水を口の中に入れたまま、鼻でゆっくり呼吸する練習をしてみましょう。最初は3秒からでも構いません。「このくらいの水なら大丈夫だ」という感覚を掴めます。
治療に臨める持ち物を用意する

当日、カバンに安心のための持ち物セットを入れておくと、治療に臨む気持ちがぐっと楽になります。
- 口周りを拭くための小さめのタオル
- 治療後に交換する替えマスク
- 髪が邪魔にならないようにするヘアピンやヘアゴム
- さっと直せるリップクリームなど
- 最低限のメイク直しセット
完璧な準備は必要ありませんが、これらがあれば治療前後の多くの「ちょっと困った」に対応できます。
通院のストレスを可能な限り和らげるために

歯科治療中の水しぶきは、歯を熱から守るために欠かせないものです。とはいえ、お顔が濡れるなどの不快感を「仕方ない」と我慢する必要はありません。
「水しぶきが少し苦手です」と治療前にひとこと伝えるだけで、バキュームの当て方を工夫したり、タオルを追加したりと細やかな対応が期待できます。
ポラリス歯科・矯正歯科では、水しぶきのような治療中の細かなご要望から、患者さん一人ひとりのライフスタイルまで、丁寧にお話を伺うことを大切にしています。お口のことで気になることがありましたら、札幌駅すぐそばのポラリス歯科・矯正歯科へ、どうぞお気軽にご相談ください。
参考文献
- 厚生労働省『一般歯科診療時の院内感染対策に係る指針(第2版)』(2019)
- 東北大学プレスリリース「歯科治療で発生する飛沫・エアロゾルの可視化に成功」(2023年3月7日)
- 日本歯科医師会『新たな感染症を踏まえた歯科診療の指針』(2020年)





