訪問歯科での口腔ケアの大切さ

訪問歯科での口腔ケアの大切さ
 

以前、口腔ジェル・口腔保湿剤の使い方のコラムで、オーラルフレイルについてお話ししました。オーラルフレイルとは加齢に伴う口腔機能の衰えのことで、超高齢化社会を迎える日本では、看過できない問題として日本歯科医師会や各地方自治体も注目しています。

 

多くの方が思い浮かべる歯科治療とは、虫歯治療歯周病の治療などが中心かもしれません。しかし高齢になってくると、お口の機能そのものが低下するとともに、足腰が不自由になったり、介護施設に入所するケースもあり、歯科医院に通院すること自体が難しくなってきます。

 

このような高齢者の皆さんのために、訪問歯科による診療が重要な役割を果たします。高齢者への訪問歯科診療では、歯の治療だけではなく、病気の予防と口腔機能の維持・向上のために行う、口腔ケアがとても大切になります。

 

今回は、そんな訪問歯科における口腔ケアの重要性と、その効果についてお話ししていきましょう。

訪問歯科における口腔ケア

口腔ケアとは、お口の中を清潔な状態に保ち、お口の働きを適切な状態に維持・改善していくことをいいます。この口腔ケアには、器質的口腔ケア機能的口腔ケアの2つがあります。

器質的口腔ケア

器質的口腔ケア
 

器質的口腔ケアとは、お口の中を清潔な状態に保つためのケアです。歯の清掃はもちろん、舌や歯肉、頬の内側の粘膜といった、お口の中全ての清掃が対象となります。

 

歯の清掃は分かりやすいと思いますが、頬の粘膜まで清掃の対象とするのは、不思議に思う方もいらっしゃるかもしれませんね。

 

実は、人は年齢を重ねるにつれ、少しずつ頬や唇、舌の動きが衰えてきます。すると、若い頃は無意識に舌や粘膜を動かして取り除けていた食べかすなどが、頬と歯肉の間や、歯の表面に残りやすくなるのです。

 

器質的口腔ケアでは、まず、汚れの残りやすい箇所を確認し、お口の中の動きや機能を把握します。そして、専門的な器具だけでなく、ご家庭で使われているような歯ブラシ、歯間ブラシなども用いて口腔内清掃を行います。

 

こういった口内の清掃に加え、一人一人に合った歯のお手入れ方法について、患者さんご自身と介護をされている方にきちんとお伝えすることも、器質的口腔ケアの目的になります。

機能的口腔ケア

機能的口腔ケア
 

機能的口腔ケアとは、食べる、呼吸する、笑う、表情を作る、コミュニケーションをとるといった、お口及びその周囲の様々な働きを維持・増進させるためのケアを指します。

 

手足の筋肉と同じで、お口の周りの筋肉も、必要最低限しか使わなければ、どんどん衰えていってしまいます。筋肉が衰えていくと血流も悪くなり、免疫機能が低下することや、脳に運ばれる酸素の量が減少し、認知症の発症リスクを上げるといった報告もされています。

 

また、今まで普通に行っていた、飲み込むことや笑うことにも不具合を感じやすくなります。これらは突然起こるのではなく、徐々に生じてくるため、発見が遅れがちです。

 

いったん衰えてしまった筋肉を、以前のような状態まで回復させるのは、大変な労力を必要とします。お口周辺の筋肉の変化にいち早く気づき、早めの対処をしていくことも、機能的口腔ケアの大切な役割なのです。

口腔ケアの効果

お口の機能が衰えがちな高齢者の方も、しっかりとした口腔ケアを行うことによって、以下のような効果が見込めるようになります。

虫歯や歯周病の予防

虫歯や歯周病の予防
 

高齢になってくると、虫歯の治療を行うのも負担が大きくなります。現在虫歯がなくても、お口の中の状態を把握して口腔ケアを行い、特に注意が必要な部位は経過観察を怠らないことも、虫歯予防には大切です。

 

また、きちんと清掃を行うことによって歯周病の進行を防ぎ、1本でも多く自分の歯で噛めるよう、お手伝いしていきます。8020(ハチマルニイマル)運動のコラムでもお伝えしましたが、80歳の時点で、健康な歯を20本以上保っていれば、自分の歯でしっかりと噛むことができます。

 

高齢になっても自分の歯を使えることは、食生活をはじめ、快適な日常の基本となりますから、適切な口腔ケアが欠かせないのです。

誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)の予防

誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)の予防
 

誤嚥(ごえん)とは、食べ物や飲み物、唾液を飲み込む際に、誤って空気の通り道である気管に入ってしまうことを指します。誤嚥性肺炎は、誤嚥した食べ物や唾液中に含まれる細菌が、肺に入り込んで生じる肺炎のことで、70歳以上の高齢者がかかる肺炎の、実に7割以上が誤嚥性肺炎であると言われます。

 

誤嚥は、口周辺の筋力が低下して上手く飲み込めなくなったり、異物が気管に入った際に、反射的にむせて異物を吐き出せなくなったりすることで生じます。さらに、口内環境が悪化し、お口の中の細菌が多い状態になると、誤嚥によって肺に入り込む細菌の量も多くなり、肺炎を発症しやすくなってしまうのです。

 

誤嚥性肺炎を予防するには、まず第一にお口の中を清潔にすることが大切です。お口の中を清潔な状態に保っていれば、口内細菌の量も減少し、もし誤嚥したとしても、肺炎が生じるリスクを低下させることができます。

 

また、誤嚥しないよう、きちんと飲み込む力をつけることも重要です。そのためにも、お口周りの筋肉を鍛える体操や、マッサージなどを併行して行っていくのが良いでしょう。  

味覚の向上、食欲増進

味覚の向上、食欲増進
 

お口の中を清潔に保っていれば、食事を快適に食べられるようになります。そして、お口周りの筋肉をしっかり動かすことによって、唾液の分泌が促され、味も感じやすくなります。

 

味覚が向上して食欲が増え、食事を楽しめるようになるのは、高齢者にとって大切なことです。食べる意欲が増すと、体力向上にもつながり、低栄養や脱水にもなりにくくなるからです。

 

さらに、よく噛めるようになると、食べかすがお口の中に残りにくくなるという利点もありますし、唾液の分泌量が増えると、お口の中が乾燥せずに潤うようになってきます。

 

詳しくは口腔ジェル・口腔保湿剤の使い方のコラムでもお話ししましたが、お口が潤えば、ドライマウス(お口の乾燥症)による免疫力の低下を防ぎ、口唇炎や口内炎の予防、お口の粘膜の保護などにも効果的です。

QOLの向上

QOLの向上
 

QOL(Quality Of Life)とは、生活の質などと訳され、ただ生きているだけではなく、自分の望む、自分らしい人生を歩む指標になるものを指します。

 

適切な口腔ケアを行うことによって、お口の中の不快感が減り、お口周りの筋肉もきちんと使えるようになってきます。お口がしっかりと機能するようになれば、食事の楽しさを感じやすくなりますし、会話もスムーズに行えるので、周囲の人とのコミュニケーションが生まれます。

 

このように、日常の楽しさや社会との関わりが増え、行動に幅ができ、生活が豊かになります。患者さん自身の幸福度を上げるためにも、口腔ケアは大切なのです。

適切な口腔ケアで、いつまでも活き活きとした人生を

適切な口腔ケアで、いつまでも活き活きとした人生を
 

今回は、訪問歯科における口腔ケアの重要性についてお伝えしました。若い方はなかなか想像できないかもしれませんが、歳を重ねるにつれ、お口の機能はどうしても落ちてしまうものなのです。

 

高齢になっても、お口の機能がしっかりと保たれていることは、生活の質の向上につながります。口腔ケアは単なる歯と周辺組織の清掃ではなく、より良い日常を送るために、お口の環境を整え、お口の機能を最大限活用できるようにする支えであると、ポラリス歯科・矯正歯科のスタッフは認識しています。

 
口腔ケアは単なる歯の清掃ではなく、より良い日常を送るために、お口の環境を整え、今ある機能を最大限活用できるようにする支えであると、ポラリス歯科・矯正歯科のスタッフは認識しています。
 

ポラリス歯科・矯正歯科では、高齢者の方に最適な歯科治療のみならず、確かな口腔ケアも提供しておりますので、今回のコラムを読んで興味を持った方は、お気軽にお問い合わせいただければと思います。