歯の治療全般
マラソンやランニングをする方に多いお口のトラブルって?

「最近、走った後にすごく口が乾く」
「マラソンをするようになって口臭が強くなったかも」
「ランニングを始めてから、虫歯になったり、歯がしみる気がする」
このようなお悩みはありませんか?
前回のプロテイン習慣と口臭の関係に続き、今回もアスリート、特にランナーの方のお口の健康にフォーカスします。
実は、ランニングやマラソンを頑張る人ほど、虫歯や口臭のリスクが高くなりやすいことが分かっています。一生懸命走っている最中の口呼吸や、パフォーマンス維持のためにスポーツドリンクを多く摂取することが、知らず知らずのうちにお口の環境を悪化させる原因になることがあるのです。
今回は、なぜランニングやマラソンを日常的に行う方のお口のリスクが高まるのか、その理由と予防法について解説します。
マラソンやランニングをする方に多いお口のトラブル
マラソンやランニングは心身の健康に多くの良い影響をもたらしますが、長距離を走るランナー特有のお口のトラブルに悩まされることがあります。ここでは、マラソンやランニングの習慣のある方に起こりやすい口腔トラブルについて解説します。
マラソンやランニング後に気になるお口の乾燥と口臭

マラソン大会や長時間のランニングの後に、ご自身の口臭が気になった経験はありませんか。その主な原因は、口呼吸によるお口の乾燥(ドライマウス)です。
走っている最中は無意識に口呼吸になりがちで、唾液が蒸発しやすくなります。唾液には、お口の中の細菌を洗い流したり、その活動を抑えたりする大切な役割がありますが、唾液の量が減ると細菌が繁殖しやすくなってしまいます。
プロテイン習慣と口臭の関係のコラムでも解説したとおり、この口内細菌は、タンパク質を分解する際に揮発性硫黄化合物(VSC)という、卵が腐ったような臭いの原因物質を発生させるため、口臭の原因になるのです。
また、エネルギー補給で口にする糖分を含んだドリンクやゼリーは、細菌にとって栄養源にもなってしまいます。これも細菌の増殖を促し、口臭が強くなる要因となります。
マラソンやランニングをするようになってから虫歯の進行が早い

ランニング習慣のある方の中には「以前より虫歯の進行が早い」と感じる人もいます。詳しい原因については後述しますが、その一つに、スポーツドリンクやエナジージェルなどに含まれる酸と糖分があります。
これらの飲食物は酸性度が高いものが多く、頻繁に摂取すると歯の表面からカルシウムやリンが溶け出す脱灰(だっかい)が起こりやすい状態になります。
通常であれば、唾液が酸を中和し、溶け出した成分を歯に戻す再石灰化(さいせっかいか)を促してくれるのですが、上述のとおり、ランニング中は唾液の分泌が減っているため、この修復機能が十分に働きません。
そのため、お口の中が酸性の状態に長くさらされてしまい、虫歯のリスクが高まる傾向があります。
マラソンやランニングをすると歯茎の腫れや出血が起こる

マラソンやランニング後に「歯茎が赤く腫れる」「出血しやすい」と訴える方もいます。これも唾液の減少が関係しており、唾液の抗菌作用が弱まることで歯周病菌が活動しやすくなるためです。
また、走っている最中に無意識に歯を食いしばることで、歯や歯茎に大きな負担がかかり、炎症を起こすケースも見られます。さらに脱水気味になると血液の巡りが滞るため、歯茎の炎症が治りにくくなってしまうのです。
日本歯周病学会のガイドラインでも、唾液の減少による口腔内の乾燥(ドライマウス)は歯周病の進行因子であることが示されており、ランナーは特に注意が必要です。
マラソンやランニングで歯のトラブルが増える3つの理由
お伝えしてきたように、マラソンやランニングをすることで、お口の中にも様々な変化が起きます。この口腔内の環境の変化が、大切な歯に対しても悪影響を与えることがあります。
口呼吸や脱水による唾液の減少

冒頭でもお話ししましたが、ランニング中は呼吸が激しくなり、無意識のうちに口呼吸が増えます。さらに、発汗によって体内の水分が失われると、唾液の分泌量も減少するため、口腔内がいっそう乾燥します。
このお口の渇き(ドライマウス)が虫歯のリスクを高める原因になります。
唾液には、自浄作用、中和作用、再石灰化作用など、お口の健康を守るための大切な役割がありますが、ランニングによって唾液が減ってしまうと、これらの働きも低下し、その結果、お口の中に細菌が繁殖しやすくなり、虫歯が進行しやすい環境が生まれてしまうのです。
暑い夏場のマラソンやランニングは特に注意

気温の高い夏場のランニングやマラソン大会では、軽度の脱水でも口腔乾燥(ドライマウス)の症状が強く出やすく、虫歯や歯周病のリスクが高くなります。
厚生労働省の健康指針にも、運動時には「体温調節・循環機能だけでなく、口腔乾燥のリスクにも注意が必要」であると掲載されているので、十分気をつけるようにしてください。
スポーツドリンクによる酸蝕症(さんしょくしょう)

前述のように、パフォーマンス維持のために摂取するスポーツドリンクやエナジージェルも、注意が必要です。
これらは水分やエネルギーを効率良く補給できる一方で、多くの製品が強い酸性(pH5.5以下)であり、歯の表面のエナメル質を溶かす酸蝕症(さんしょくしょう)を引き起こすことがあります。
さらに、含まれている糖分は虫歯菌の栄養源にもなってしまいます。特に、練習中に時間をかけて少しずつ摂取するような飲み方をすると、お口の中が常に酸性かつ糖分が多い状態に保たれるため、虫歯になるリスクが高くなります。
歯の摩耗や亀裂

長時間のランニングやレース中、無意識に歯を強く食いしばっていることはありませんか?この強い力は、歯の表面に目に見えないほどの細かな傷や亀裂(マイクロクラック)を生じさせることがあります。
亀裂は、冷たいものがしみる知覚過敏の原因になるだけではありません。傷ついた部分から虫歯菌が内部に侵入しやすくなるため、健康に見える歯でも内側から虫歯が進行する可能性も出てきます。
虫歯は、初期には痛みを伴わないことが多く、気づいた時には修復が必要なレベルに進行している場合も少なくありません。注意しましょう。
マラソンやランニング愛好家のための口腔ケア
マラソンやランニングに伴うお口のトラブルは、少しの工夫と正しいケアで十分に予防できます。ここでは、ランナーの方がすぐに実践できる口腔ケアをご紹介しましょう。
飲み物の選び方と飲み方

パフォーマンスを維持しながらお口の健康を守るには、水分補給の「質」と「タイミング」がカギとなります。
基本の水分補給は、糖分や酸を含まない水や麦茶がおすすめです。また、日本体育協会(現:日本スポーツ協会)のガイドラインでは、運動開始の30分前に水分を摂取し、運動中は15〜20分ごとに100〜200mlの補給を行うことが勧められています。これにより、脱水を防ぐと同時に、口腔内を乾燥から守る効果も期待できます。
そしてスポーツドリンクやエナジージェルを摂取する際は、お口が酸性・高糖分の状態に長くさらされるのを避けるため、以下の点を心がけましょう。
- 水と交互に飲む:スポーツドリンクを飲んだら、次に水を飲むようにする。
- 飲んだ後は口をすすぐ:少量の水で口を軽くゆすぐだけでも効果があります。
- 時間を決めて摂取する:だらだら飲むことは避け、補給のタイミングを決めましょう。
キシリトールの活用で唾液を促す

唾液の分泌を促すことはお口の乾燥対策に有効です。キシリトール配合のガムやタブレットは、唾液の分泌を助け、お口の中の酸を中和する働きをサポートしてくれます。
マラソンやランニングの合間や走り終わった後に、これらキシリトール入りの製品を摂取することも取り入れてみましょう。
マラソンやランニング後の口腔ケア

走り終わったら、まずは水でうがいをしましょう。お口の中に残ったスポーツドリンクの糖分や酸を洗い流し、酸性に傾いた口腔内を中性に戻すことができます。
その後の歯磨きは、30分ほど時間を置いてから行うのが理想と言えます。運動直後のお口の中は酸の影響で歯の表面が少し柔らかくなっており、すぐに強く磨くとエナメル質を傷つけてしまう恐れがあるからです。
唾液の力で歯の状態が落ち着くのを待ってから、フッ素配合の歯磨き粉を使って優しく磨きましょう。
健康な歯でもっと走りを楽しもう

今回お伝えしたように、練習に励むランナーほど、口呼吸による唾液の減少や、スポーツドリンクに含まれる糖と酸の影響で、口臭・虫歯・酸蝕症といった口腔トラブルのリスクが高まる傾向があります。
もちろん、口腔トラブルのリスクが高くなるからといって、マラソンやランニングを止めた方が良いわけではありません。健康づくりのためにも、走ることは良い習慣ですし、汗をかいてスッキリすることで、メンタル面にも良い影響があるでしょう。
ご紹介したようなケアを忘れずに、お口の健康を守りつつ、マラソンやランニングをするのがポイントです。日本歯科医師会も「スポーツと口腔の健康は切り離せない」ことを強調していますから、セルフケアとともに定期的な歯科検診も取り入れつつ、体もお口も万全のコンディションを維持していきましょう。
「マラソン後の口の渇きに悩んでいる」「ランニングをすると口臭が気になる」といったお悩みをお持ちの方も、札幌駅すぐそばのポラリス歯科・矯正歯科にどうぞお気軽にご相談ください。
参考文献