歯の治療全般
職業別の歯やお口に起こりやすい症状とは

「最近、集中すると無意識に歯を食いしばっている…」
「なんだか顎が疲れるし、口内炎もできやすい気がする…」
「忙しくて、つい食事や歯磨きが不規則になりがち…」
毎日お仕事を頑張る中で、こんなお口の不調を感じていませんか?もしかしたら、その症状、あなたの職業が原因かもしれません。
実は、職業ごとの働き方や環境によって、かかりやすい歯のトラブルには一定の傾向があります。毎日長時間過ごす職場環境だからこそ、知らず知らずのうちに歯や顎に負担をかけているケースは少なくないのです。
今回は、職業別に起こりやすい歯やお口の症状と対処法を解説します。
仕事内容で歯のトラブルが変わる3つの理由
「仕事で歯が悪くなる」と言っても、ピンとこないかもしれません。職業が歯の健康に影響を与える主な原因は、大きく分けて以下の3つです。
精神的ストレスによる「食いしばり・歯ぎしり」

納期や人間関係、目標達成へのプレッシャーなど、仕事にはストレスがつきものです。ストレスを感じると、体は無意識に緊張し、歯を強く食いしばったり、睡眠中に歯ぎしりをしたりすることが増えます。
この力は非常に強く、歯がすり減ったり、欠けたりするだけでなく、顎関節症や頭痛、肩こりの原因にもなりますので、注意が必要です。
歯ぎしりについてより詳しく知りたい方は、歯ぎしりによる弊害のコラムで解説しておりますので、併せてご参考になさってください。
不規則な生活習慣と「食生活の乱れ」

シフト勤務や長時間の残業、会食の多さなど、職業によっては生活リズムが不規則になりがちです。
食事の時間がバラバラになったり、エネルギー補給のために間食が増えたりすると、お口の中が酸性に傾く時間が長くなり、虫歯のリスクが上昇します。また、忙しさから歯磨きがおろそかになることも、歯のトラブルを助長してしまいます。
特殊な作業環境による「物理的・化学的ダメージ」

粉塵が舞う環境や、酸性の化学物質を扱う工場、転落のリスクがある高所など、特定の職場環境は直接的にお口の健康を脅かすことがあります。
また、重いものを持ち上げる際の食いしばりや、特定の姿勢を長時間続けることも、歯や顎への負担につながります。
【職業別】注意したい歯やお口のトラブル
具体的な職業を例に、どのようなリスクが潜んでいるのか見ていきましょう。
飲食業(料理人・パティシエなど)
● 主なリスク:虫歯、酸蝕症

味見や試食などで、糖分や酸を含む飲食物に触れる時間が長くなりがちな職業です。味見や試食が多くなると、お口の中が酸性に傾いている時間が長くなるため、どうしても口腔内が虫歯になりやすい状態になってしまいます。
かつて菓子屋齲蝕症(かしやうしょくしょう:糖分を含む菓子類を多く摂ることで虫歯になること)という言葉があったほど、古くから知られている職業病の一つと言えるでしょう。平成26~28年度に行われた厚生労働省の調査研究でも、虫歯の多さが指摘されています。
また、虫歯と並んで注意したいのが、マラソンやランニングをする方に多いお口のトラブルって?のコラムにも出てきた酸蝕症(さんしょくしょう)です。
酸蝕症は虫歯菌ではなく、食品自体に含まれる酸によって歯の表面(エナメル質)が直接溶かされてしまう症状を指します。お酢を使った料理や柑橘類、ワインなどを頻繁に口にするソムリエの方は、リスクが高まるため注意が必要です。
工場・高所作業員
● 主なリスク:酸蝕症、外傷

先ほど酸蝕症が出てきましたが、バッテリーやメッキ加工など、塩酸や硫酸といった化学物質を扱う工場では、発生する酸性のガスが原因で歯が溶ける酸蝕症を引き起こすことがあります。
また、建設現場などで高所作業に従事する方は、転落による外傷に注意しなければなりません。唇や舌の切り傷、歯の破折(はせつ:折れたり欠けたりすること)のほか、顔面を強打した場合は顎の骨折といった深刻な事態に至る可能性もあります。
「高所」というと数メートル以上を想像しがちですが、わずか30cmほどの段差からでも、打ちどころが悪ければ大きなケガにつながるため油断は禁物です。
デスクワーク・事務職
● 主なリスク:顎関節症、口内炎、ドライマウス(お口の乾燥症)

長時間のデスクワーク特有の習慣が、お口のトラブルを招くことがあります。特に多いのが顎関節症で、その原因の一つにパソコン作業中の姿勢が挙げられます。
画面の位置が低いノートPCを使うと、どうしても頭が前に出る前傾姿勢になりがちです。前傾姿勢が続くと、首や肩の筋肉が緊張するだけでなく、顎の位置が微妙にずれ、無意識に上下の歯が接触しやすくなってしまいます。この歯が接触しやすい状態になることを、歯列接触癖(TCH:Tooth Contacting Habit)といいます。
このような負荷が持続的に続くことで、顎の痛みや「カクカク」という音、口の開きにくさといった顎関節症の症状を引き起こすのです。
また、歯が常に接触している状態では、頬の内側や舌を噛みやすくなり、口内炎ができやすくなったり、長時間の緊張やストレスは唾液の分泌を減少させ、ドライマウスにもなりやすくなります。
唾液にはお口の中を清潔に保つ重要な役割があるため、分泌量が減ると虫歯や歯周病、口臭のリスクも高くなるなど、様々な悪影響が出てきます。
スポーツ選手・インストラクター
● 主なリスク:外傷、顎関節症

プロの選手だけでなく、趣味でスポーツを楽しむ方も注意が必要です。他の選手やボールとの接触、転倒などにより顔面を強打すると、歯が折れたり抜けたりするだけでなく、顎を骨折することもあります。
特に、衝撃が目の付近に及ぶと、眼窩底(がんかてい)という目の下の骨を骨折し、物が二重に見えるなどの後遺症が残るケースも報告されています。
また、プレー中に力を込める瞬間の食いしばりも、歯や顎に大きな負担をかけます。この癖が、顎の痛みや口の開きにくさを特徴とする顎関節症の引き金になることは少なくありません。
スポーツに関する歯やお口のトラブルについては、マラソンやランニングをする方に多いお口のトラブルって?やプロテイン習慣と口臭の関係のコラムで詳しく解説しておりますので、併せてご参照ください。
声を出す機会の多い職業(歌手・アナウンサーなど)
● 主なリスク:ドライマウス(お口の乾燥)

歌手やアナウンサー、俳優など、声を出す機会の多い職業の方は、口呼吸になりやすくお口が乾燥しがちです。ドライマウスになって唾液が減ると、お口の自浄作用が弱まり、虫歯や口臭につながる可能性があります。
法執行機関(警察官・自衛官など)
法執行機関は、警察や自衛隊、海上保安庁、麻薬取締局などを指します。
● 主なリスク:外傷

警察官や自衛官など、市民の安全を守る職務では、不測の事態に直面することも少なくありません。そのため、公務中の事故による顔面の打撲や歯の破折、顎の骨折といった外傷のリスクが伴います。
歯やお口を守るためにできるセルフケアとプロフェッショナルケア
各職業の特性によって生じやすい歯のリスクを、仕方のないことだと諦める必要はありません。リスクを正しく理解し、ご自身に合ったケアを実践することが、大切な歯を守ることにつながります。
虫歯

虫歯予防には、ご自身による歯磨きに加え、歯科医院での定期的な歯のクリーニングやフッ素塗布が効果的です。予防歯科のページで解説しているように、歯科医院では専用機材によるPMTC(プロフェッショナル・メカニカル・トゥース・クリーニング)によって、歯を清潔に保つことができます。
なかなか空き時間が取れないという飲食業の方は、日常的にフッ素配合のマウスウォッシュを使うこともご検討ください。マウスウォッシュについては、マウスウォッシュを使う時のポイントは?のコラムで詳しく解説しておりますので、併せてご参考になさってください。
酸蝕症

酸蝕症の予防には、歯磨きをするのが基本になります。飲食業で、勤務中にしっかり歯磨きするのが難しい方は、少なくともうがいだけでもしましょう。
バッテリー工場やメッキ加工工場などにお勤めの方の場合は、作業中に意識的に口を閉じる、マスクを正しく着用する、こまめにうがいをするといった対策が歯への影響を軽減することにつながります。
顎関節症

顎関節症の原因は様々なのですが、仕事に関係する原因としては、食いしばりなどの噛み合わせの癖が多くなります。
このような癖から顎を守るために、歯科医院で作製するご自身に合ったマウスピース(スプリント)の装着が有効な場合があります。作業中、もしくは運動中など、噛み合わせの癖が出現しそうなときに、使ってみてください。
外傷・口内炎

外傷による歯やお口のケガなどを完全に防ぐことはできませんが、こちらもマウスピースを使っていただくと、歯やお口へのダメージを減らすことはできます。特にスポーツ選手の方は、マウスガード(スポーツ用のマウスピース)をあらかじめ作っておくことをおすすめします。
また、就寝中の歯ぎしりや日中の食いしばりによって、頬の内側や舌を繰り返し噛んでしまうと、口内炎ができやすくなります。就寝中はナイトガード(就寝時に使用するマウスピース)を使うなど、このような場合も、マウスピースを装着することで、歯や顎だけでなく、お口の粘膜を保護する効果が期待できます。
ご自身の「歯の職業リスク」を理解し、生涯健康な歯を目指しましょう
今回は、職業ごとに歯やお口に起こる可能性のある症状についてお話ししました。大切なのは、「これが自分の仕事だから仕方ない」と諦めるのではなく、ご自身の職業に潜むリスクを理解し、セルフケアとプロフェッショナルケアを上手に組み合わせることです。
ポラリス歯科・矯正歯科では、患者さん一人ひとりのライフスタイルを丁寧にお伺いしたうえで、それぞれに合った予防プランや治療法をご提案しています。
「私の仕事の場合はどうすれば?」といったご質問についても、しっかりとご相談に乗ったうえで対応いたしますので、お口のことで気になる症状がありましたら、札幌駅すぐそばのポラリス歯科・矯正歯科へ、お気軽にご連絡ください。