入れ歯
夜寝る時は入れ歯を外した方が良い?

「ぐっすり眠りたいのに、口の中の入れ歯がどうも気になる…」
「入れ歯を毎日外すのは面倒。本当に外さないといけないの?」
入れ歯を使用していれば、そのようにお感じになったことがある方は多いのではないでしょうか?
これまで様々なコラムでも入れ歯について取り上げてきましたが、入れ歯の夜間の取り扱いというのは、意外と悩ましい問題ですよね。
ネットやSNSでも様々な意見が飛び交い、歯科医師によっても考え方が異なる場合もあるので、どうすれば良いのか迷ってしまうのも無理はありません。
しかし、夜間の入れ歯の取り扱いを間違ってしまうと、お口の健康を損ねるだけでなく、睡眠の質にも悪影響を及ぼす可能性があります。
今回は、夜寝る時の入れ歯の取り扱いについて、様々な角度から掘り下げて解説していきます。
なぜ睡眠中は入れ歯を外すべきと言われるのか?
結論から申し上げますと、就寝時には入れ歯を外すことをおすすめします。実際に、日本補綴歯科学会の有床義歯補綴診療のガイドラインによると、夜寝る時は入れ歯を外した方が良いとされていますが、その背景には、3つの重要な理由が存在します。
歯肉への負担を軽減し、血行を促進するため

日中、私たちは食事や会話など、様々な活動によって常に顎を動かしています。入れ歯は、歯肉という柔らかい組織の上に支えられているため、長時間装着していると、どうしても歯肉に負担がかかってしまいます。
特に、合わない入れ歯を使用している場合や、加齢によって歯肉の状態が変化している場合は、その負担はさらに大きくなります。
夜間の睡眠中は、顎の動きが少なくなるため、入れ歯を外すことで歯肉を解放し、圧迫から守ることができます。これにより、歯肉の血行が促進され、組織の回復を促すことができるのです。
もし入れ歯を装着したまま寝てしまうと、歯肉は常に圧迫された状態となり、炎症や腫れ、痛みといったトラブルを引き起こす可能性があります。
口腔内の衛生環境を保ち、細菌の繁殖を抑えるため

入れ歯は、どうしても汚れがつきやすいものです。食事の際の食べかすはもちろん、唾液中の細菌や歯垢(プラーク)なども付着します。
日中であれば、唾液の自浄作用や歯磨きによってある程度清潔に保つことができますが、睡眠中は唾液の分泌量が減少し、自浄作用が低下します。
もし入れ歯を装着したまま寝てしまうと、入れ歯に付着した細菌が口腔内で繁殖しやすくなります。これは、口臭の原因となるだけでなく、歯周病や誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん:唾液や食物とともに細菌が気管や肺に入り込み、肺炎を起こしてしまう)といった、より深刻な病気のリスクを高めてしまうことも指摘されています。
入れ歯を外して清掃することで、これらの細菌の繁殖を抑え、口腔内を清潔に保つことができるのです。
誤嚥のリスクを低減するため

先ほど誤嚥性肺炎のお話が出ましたが、特に高齢の方や、身体的な機能が低下している方にとって、夜間の入れ歯の装着は、誤嚥(唾液や食物を飲み込んだ時、食道ではなく気管に入ってしまうこと)のリスクを高める可能性があります。
また、睡眠中は、反射機能が鈍くなるため、万が一入れ歯が外れて気道に入り込んでしまうと、窒息につながる危険性もあるのです。
もちろん、しっかりと安定している入れ歯であれば、そう簡単に外れることはありませんが、経年劣化によって緩くなっていたり、何らかの拍子に外れてしまうことも、絶対にないとは言えません。安全性を考慮すると、夜間は入れ歯を外しておく方が賢明と言えるでしょう。
どうしても入れ歯を外せないのは?

ここまで、夜寝る時には入れ歯を外すことが重要であることをお伝えしてきました。しかし様々な理由で、どうしても外せないという方もいらっしゃるかもしれません。
例えば、治療の一環として、一時的に夜間の装着が必要になることもあります。この場合はあくまでも治療ですので、必ず歯科医院の指示に従ってください。
また、入れ歯を外すことに強い不安を感じるなど、精神的なな理由から外せない方もいらっしゃいます。不安が取り除かれれば、入れ歯を外せるようになることも考えられますから、このような場合も、まずは歯科医院で相談しましょう。
ほかに、災害時など、すぐに身なりを整える必要がある状況を想定して、装着したまま寝ることを選択するケースもあるかもしれません。
丁寧な入れ歯のケアが何より大切
入れ歯は日頃のメンテナンスが重要ですが、上述したような理由で、なかなか入れ歯を外せないという方は、より丁寧なケアを心がける必要があります。
毎日の清掃

通常の歯磨きに加え、入れ歯専用のブラシや洗浄剤を用いて、より丁寧に汚れを落としましょう。外した入れ歯は、毎日丁寧に洗浄することが大切です。
正しい保管

入れ歯は乾燥に弱いため、外した入れ歯は、必ず水または入れ歯洗浄液に浸して保管してください。
熱湯に浸したり、乾燥した場所に放置したりすると、入れ歯が変形する恐れがあります。必ず常温の水または洗浄液を使用し、直射日光の当たらない場所に保管しましょう。
口腔内の保湿

寝る前には、保湿ジェルなどを使用して口腔内の乾燥を防ぎ、細菌の繁殖を抑えるようにしてください。
口腔用の保湿ジェルについては、口腔ジェル・口腔保湿剤の使い方のコラムで詳しく解説しておりますので、併せてご参考になさってください。
歯科医院でのチェックとメンテナンス

歯肉の状態や入れ歯の適合具合を、定期的に歯科医院で確認してもらいましょう。入れ歯を外せない方は、歯科医院での確認の頻度を多くするようにしてください。
歯科医院では、自分で行うケアだけでは、どうしても落としきれない汚れや歯石を除去することができます。定期的に歯科医院を訪れ、歯科医師や歯科衛生士による専門的なクリーニングを受けるようにしましょう。
正しい入れ歯の使用を心がけて

お伝えしたように、夜寝る時には原則として入れ歯を外すことが、お口の健康と快適な睡眠のために重要であることをご理解いただけたかと思います。
夜の時間は、私たち人間にとって心身を休ませ、明日への活力を養うための大切な時間です。お口の中も同様に、休息と回復の時間が必要です。
もし、何らかの理由で夜間も入れ歯を外せないという方は、お伝えした注意点をしっかりと守り、通常以上に丁寧なケアを心がけてください。そして、少しでも不安なことや疑問があれば、自己判断せずに、歯科医院で相談するようにしましょう。
一方、夜間にしっかりと入れ歯を外して休ませることができる方は、正しい洗浄と保管を忘れずに、毎日の習慣にしてください。これは、入れ歯を長持ちさせるだけでなく、質の高い睡眠と、お口全体の健康を守るための一歩となります。
今回のコラムを参考に、ご自身のライフスタイルや口腔内の状態に合わせて、夜の入れ歯との向き合い方を考えてみてください。もし判断に迷う場合は、医療法人社団 千仁会の多くの専門医が在籍する、札幌のポラリス歯科・矯正歯科へお気軽にお問い合わせいただければと思います。