歯の発育不足・発育過剰で現れる様々な異常とは

歯の発育不足・発育過剰で現れる様々な異常とは
 

歯は、身体の成長とともに顎の骨の中で育ち、大きくなっていきます。しかし、歯の成長途中に何らかの悪影響が生じると、歯の数や構造、形状などに異常が現れるようになります。

 

大きくは歯の発育不足の場合と、歯の発育過剰の場合に分けられますが、今回は、各々の場合に現れる各種症状についてご紹介します。少し難しい単語も並びますが、なるべく分かりやすく解説していきます。

歯の発育不足の場合

歯の成長発育が足りない場合には、歯の数や構造、形、色などに以下のような症状が現れます。

歯の数の異常

歯の成長発育不足は、歯そのものの数にも影響が出ます。

乳歯と永久歯

完全無歯症(かんぜんむししょう)

無歯症は歯の数が足りない状態のことで、完全無歯症は歯が全くない状態をいいます。完全無歯症は大変珍しい症状です。

 

無歯症は、身体の外側を作る外胚葉の病気である外胚葉異形成症(ectodermal dysplsia:がいはいよういけいせいしょう)の一症状として現れることがあります。

 

外胚葉異形成症とは、先天的に毛髪や歯、爪などの外胚葉組織に異常がある疾患のことで、歯の数だけでなく、汗を作る汗腺や皮脂を作る皮脂腺の欠如、毛髪の異常などが認められます。

先天性欠如(せんてんせいけつじょ)

先天性欠如は、生まれつき歯が正常よりも少ない状態です。先天性無歯症(anodontia)の一種ということで部分的無歯症(partial anodontia)という言い方もできます。(上述の完全無歯症はcomplete anodontiaと言われます)

 

先天性欠如は、第二小臼歯という前から5番目の歯や、側切歯(そくせっし)という前から2番目の歯に生じやすい傾向があります。先天性欠如は、10人に1人くらいに見られるので、比較的高い頻度を示しています。

歯の構造の異常

歯の発育が不足している場合の構造異常は、歯を構成しているエナメル質や象牙質(ぞうげしつ)がきちんと作られていない状態を指します。

歯の構造

エナメル質形成不全症(MIH)

エナメル質形成不全症(MIH:Molar Incisor Hypomineralization)は、歯の表層を覆っているエナメル質がきちんと作られない状態です。症状によって、エナメル質減形成(げんけいせい)とエナメル質石灰化不全(せっかいかふぜん)に分けられます。

 

エナメル質減形成では、エナメル質の厚み不足、部分的なエナメル質の欠落が見られます。このため、象牙質の色が浮き出てきやすくなり、黄色みが強い歯になります。エナメル質石灰化不全では、白斑や黄斑、褐色斑などの色ムラが歯に生じます。

象牙質形成不全症

象牙質形成不全症は、文字どおり象牙質がきちんと作られない状態で、歯が琥珀色っぽくなります。

 

象牙質形成不全症の場合、象牙質とエナメル質の結合力が低く、エナメル質が剥がれやすいので、歯が容易にすり減ってしまいます。また、象牙質がきちんと作られないので、歯根は短く、細くなっています。

 

こちらで述べたエナメル質形成不全症(MIH)や象牙質形成不全症の実例は、日本小児歯科学会のサイトで見ることができます。

歯の形の異常

歯が発育不足の場合、歯の形状も、通常の歯とは異なった形になります。

 
歯の形の異常
 

ハッチンソンの歯

ハッチンソンの歯は、生まれつき梅毒にかかっていた時に起こり得る歯の形の異常で、永久歯の上顎前歯の縁に、半月状のくぼみが生じます。

 

左右両方ともに生じることが多いですが、片側だけということもあります。歯の横幅も細くなっている状態が多く見受けられます。

矮小歯(わいしょうし)

矮小歯
 

矮小歯は、歯の大きさが平均的なサイズよりも小さい歯です。小ささの程度には個人差があり、非常に小さいこともあれば、少し小さい程度にとどまっていることもあります。

 

矮小歯は小さいだけでなく、形状も通常の歯と異なっているケースが多くなります。

 

提携医院である町田歯科・矯正歯科に矮小歯の治療についてのコラムがあります。興味のある方は併せてご参照ください。

円錐歯(えんすいし)

円錐歯は矮小歯の一種です。歯肉側から先端に向かうにつれて歯が細くなっており、文字どおり円錐のような形をしているのが特徴です。

 

円錐歯の多くは、先に向かって細くなっているだけでなく、歯冠の長さも短くなっています。

栓状歯(せんじょうし)

栓状歯も矮小歯の一種で、円錐状より、やや円柱に近い歯の形をしています。栓状歯は横幅は狭いのですが、歯の前後の幅には厚みがあるのが特徴です。また、先端部分にくぼみも見られます。

双生歯(そうせいし)

双生歯(Germinated Teeth)は歯の奇形の一種で、一つだった歯胚(しはい:乳歯の元となる芽のようなもの)が何らかの原因で二つに分離してしまい、そのまま成長発育した歯のことをいいます。

歯の色の異常

歯の色にも発育不全の影響は現れます。

 
歯の色の異常

斑状歯(はんじょうし)

斑状歯は、歯の成長期にフッ素を過剰に体内に取り込むことで起こる歯の色の異常で、1~2ppm以上のフッ素を長期的に取り込むことで起こります。

 

斑状歯になると、歯の表面に左右対称の水平な褐色、もしくは白色の着色が生じます。斑点状の着色症状のこともあります。この斑状歯の実例は日本臨床口腔病理学会 JSOPのサイトで見ることができますので、興味のある方は併せてご覧ください。

 

実はこの斑状歯の発見が、虫歯予防にフッ素が効果的であると判明したきっかけです。もちろん歯科医院で行うフッ素塗布や、高濃度フッ素配合の歯磨き粉などは安全ですので、ご安心ください。

テトラサイクリンの副作用

テトラサイクリンは抗菌薬の一種です。歯の形成時期にこのテトラサイクリンが投与されると、象牙質に含まれるカルシウムにテトラサイクリンが結びつき、歯の表面にしま模様が現れたり、歯の色が灰色っぽくなったりします。

発育過剰

ここまで、歯の発育不足が原因となる様々な異常についてお伝えしてきましたが、成長発育が過剰であった場合にも様々な異常が生じます。同様に、歯の数や構造、形の面からお話ししましょう。

 
歯の成長発育が過剰であった場合にも様々な異常が生じます

歯の数の異常

過剰歯(かじょうし)

歯の本来の数は乳歯20本、永久歯28~32本ですが、過剰歯は通常の本数よりも多く作られた歯のことをいいます。

 

通常の歯と同様に生えてくることもあれば、骨の中で埋まったままになっていることもあります。ただ、基本的に奇形の歯なので、形や大きさは普通の歯と異なっており、三角錐のような形をしていたり、大きさがとても小さかったりします。多くは抜歯による治療となります。

歯牙腫(しがしゅ)

 

歯牙腫は、歯胚が過剰に作られることで生じる良性腫瘍で、歯の構造を含んでいるのが特徴です。

 

歯牙腫は、集合性歯牙腫と複雑性歯牙腫に分けられますが、どちらも痛みや腫れなどの自覚症状はなく、レントゲンで撮影することで見つかるケースが多い症状です。

歯の構造の異常

歯内歯(しないし)

もう一度、歯の構造を示した図を引用しましょう。歯の神経を歯髄(しずい)といい、歯髄が収まっている歯の内部空間を歯髄腔(しずいくう)といいます。

歯の構造
 

歯内歯は、歯髄腔内部にエナメル質や象牙質が過剰に入り込んだ歯の奇形の一つです。上顎の側切歯(そくせっし)にしばしばみられます。歯内歯の実例は日本臨床口腔病理学会 JSOPのサイトで見ることができますので、興味のある方はご参照ください。

歯の形の異常

巨大歯

巨大歯は、文字どおり歯冠の長さや横幅が平均よりも著しく大きな歯です。先ほどお話しした矮小歯の逆ですね。

 

巨大歯の症状は場所によって異なり、前歯部に生じた巨大歯には歯冠の横幅が大きいものが、奥歯の巨大歯には歯冠や歯根の長さが長いものが多く見られます。

エナメル滴

エナメル滴(てき)は、奥歯の歯の根の分かれ目(分岐部)や歯根の中央部分に生じる、球状の隆起です。色合いや形からエナメル真珠(エナメルパール)と呼ばれることもあります。

 

エナメル滴ができると、歯が周辺組織としっかりと密着できず、歯周病の原因にもなります。エナメル滴の実例も、先ほどと同じく日本臨床口腔病理学会 JSOPのサイトで見ることができます。

歯の発育不足・発育過剰に伴う異常もポラリス歯科・矯正歯科にご相談ください

歯の発育不足・発育過剰に伴う異常もポラリス歯科・矯正歯科にご相談ください
 

今回は歯の発育障害と、それに伴う様々な歯の症状についてご紹介しました。専門的な用語も多かったかもしれませんが、歯の発育不足や発育過剰にどのようなものがあるか、少しでも理解が深まると嬉しく思います。

 

ポラリス歯科・矯正歯科には、医療法人社団 千仁会に所属する多くの専門医が在籍しておりますので、様々な歯の異常に対する治療についても対応が可能です。今回のコラムをお読みになって、歯について気になる点やお悩みのある方は、ポラリス歯科・矯正歯科にぜひご相談ください。