歯周病菌と肌荒れ(ニキビ・湿疹)の意外な関係

歯周病菌と肌荒れ(ニキビ・湿疹)の意外な関係

「どんなにスキンケアを頑張っても、なかなか肌荒れが治らない」
「生活習慣にも気を使っているはずなのに、なぜか肌の調子がずっと悪い」
…そんなお悩みを抱える方は少なくないものです。

 

化粧品を変えたり、生活習慣を見直したりしても改善しない場合、その原因は意外なところにあるかもしれません。

 

実は、最近の研究でお口の状態と肌の健康がつながっている可能性があるのではないかと注目されています。

 

特に、歯周病菌が関与する炎症は、ニキビや湿疹といった肌トラブルにも影響を与えることが分かってきました。そこで今回は、歯周病菌と肌荒れの意外な関係と、美容のためにできるオーラルケアについてご紹介します。

歯周病菌とは

歯周病菌とは
 

歯周病は、これまでも歯周病コラムで多く取り上げてきたように、歯茎や歯を支える骨が細菌によって炎症を起こす病気です。初期には歯茎の腫れや出血といった症状が現れ、進行すると歯を失う原因にもなりかねません。

 

また、歯肉炎と歯周炎の違いについて解説したコラムでお話ししましたが、歯を失う原因の第1位は、虫歯ではなく歯周病です。さらに日本の成人の7割以上は歯周病に罹患しているとされ、もはや国民病とも言えるでしょう。

 

この厄介な歯周病を引き起こすのが歯周病菌です。代表的な細菌はジンジバリス(Porphyromonas gingivalis, P.gingivalis)という菌で、歯茎の奥深くに潜み、毒素を出して炎症を引き起こします。歯周病はサイレントディジーズ(静かな病気)やサイレントキラーとも呼ばれるように、気づかないうちに歯周組織を蝕んでいきます。

血流に乗って全身疾患の原因にも

歯周病が全身疾患につながることも…
 

歯周病の本当に怖いところは、放っておくと全身疾患も?歯周病について詳しく解説のコラムでもお伝えしたように、お口の中だけの問題で終わらない点です。

 

炎症を起こして腫れた歯茎は、いわば傷口と同じ状態です。そこから歯周病菌や、菌が出す毒素、炎症によって生まれた炎症物質が血管に侵入し、血流に乗って全身へと広がってしまうのです。

 

その結果、糖尿病、心臓病、関節リウマチといった全身の病気にも、歯周病は関係していると考えられています。

歯周病菌がニキビや湿疹を引き起こす3つの理由

「歯周病菌が血管に入るのは分かったけど、それがどうして肌荒れに?」と思いますよね。ここからは、歯周病菌が肌トラブルを悪化させる理由を解説しましょう。

全身をめぐる炎症物質(サイトカイン)が肌に到達

全身をめぐる炎症物質(サイトカイン)が肌に到達
 

歯周病が進むと、体内で炎症を促す物質であるサイトカインが多く作られます。これらは血流に乗って全身を巡り、肌の毛穴や皮脂腺でも炎症を悪化させてしまいます。

 

その結果、赤みやニキビ、湿疹といったトラブルが出やすくなります。

免疫システムのバランスが乱れ、肌が過敏になる

免疫システムのバランスが乱れ、肌が過敏になる
 

歯周病菌が長く存在すると、免疫の働きが乱れてしまいます。すると、肌を守るはずの免疫力もうまく機能せず、ちょっとした刺激でも炎症が起こりやすくなってきます。

 

これによって「いつも同じ場所にニキビができる」「治ってもすぐ繰り返す」といった悩みにつながることがあります。

腸内フローラやホルモンへの影響

口から腸へ、そして脳へ(オーラル–ガット–ブレイン軸)
 

メンタル不調とお口の健康の意外な関係のコラムでオーラル–ガット–ブレイン軸※(Oral-Gut-Brain Axis)の概念に触れましたが、口は最初の消化器官であり、唾液と一緒に飲み込まれた歯周病菌の一部は腸に届くことがあります。

 

腸内に悪玉菌である歯周病菌がたどり着くと、善玉菌と悪玉菌のバランスが崩れ、腸内環境が悪化してしまいます。これにより、腸内フローラが良好に保たれなくなり、結果的に肌トラブルとして現れることもあります。

 

(※)オーラル–ガット–ブレイン軸口腔–腸–脳のつながり):口内細菌が腸内環境を介して、全身の様々な箇所へ影響を及ぼし、ひいては脳の機能やメンタルにまで関与するという考え。

歯周病と肌荒れの関連を示す研究

歯周病と肌荒れの関連を示す研究
 

歯周病患者は、そうでない人に比べてニキビや湿疹といった肌トラブルを抱える割合が高いという報告があります。これは単なる偶然ではなく、炎症や免疫の乱れが共通の要因になっているとも考えられます。

 

また、臨床の現場でも、歯周病の治療を進めた患者さんから、「歯茎の腫れが引いたら、顔の赤みも落ち着いてきた」「しつこかった顎の吹き出物が、最近できにくくなった」といった嬉しい声を聞くことがあります。

 

これは、歯周病治療によってお口の炎症が収まり、血流に乗って全身に広がる炎症物質が減少した結果、肌の状態にも良い影響が現れる可能性を示唆しているかもしれません。

 

もちろん、歯周病と肌荒れの関係はまだ研究の途中です。しかし、美容とオーラルヘルスを結びつける新しい分野として注目されており、今後の研究で明確な仕組みが解明されることが期待されています。

今日から始める!お口から美肌をつくるためのステップ

高価な美容液を追加する前に、まずはお口のケアを見直してみませんか? ここでは、日常生活でできることを3つのステップでご紹介します。

セルフケアとプロフェッショナルケアによる口腔ケア

今日から始める!お口から美肌をつくるためのステップ:セルフケアとプロフェッショナルケアによる口腔ケア
 

まずは毎日の歯磨きとフロス、そして歯科医院での定期的なクリーニングが基本です。歯周病菌の温床となる歯垢(プラーク)を徹底的に除去することで歯周病菌を減らし、全身への悪影響を防ぐことができます。

 

セルフケアの中心となる歯磨きでは、歯と歯茎の境目を意識して優しく磨きましょう。歯ブラシの毛先を45度の角度で当て、小刻みに動かすのがポイントです。それに加え、デンタルフロスや歯間ブラシで必ず取り除く習慣をつけましょう。これだけで、歯垢の除去率は格段にアップします。

 

そして定期的に歯科医院を受診し、専用機器によるPMTC(プロフェッショナル・メカニカル・トゥース・クリーニング)によって、セルフケアでは除去できない汚れや歯石を、プロフェッショナルケアによってきれいにしてもらうようにしてください。

生活習慣の見直し

今日から始める!お口から美肌をつくるためのステップ:生活習慣の見直し
 

不規則な生活や栄養の偏り、睡眠不足は歯周病も肌荒れも悪化させます。バランスの取れた食事、十分な睡眠は、体を内側から整え、歯茎と肌の両方を健康に保つための土台です。

 

ぜひこの機会に生活習慣も見直してみましょう。

スキンケア+オーラルケアのW習慣

今日から始める!お口から美肌をつくるためのステップ:スキンケア+オーラルケアのW習慣
 

スキンケアに時間をかけている人こそ、お口のケアも美容習慣のひとつに取り入れてみてください。「肌のために歯を磨く」という新しい発想が、きれいな肌をつくる近道になるかもしれません。

肌荒れ改善の鍵は、お口の健康にあるかもしれない

肌荒れ改善の鍵は、お口の健康にあるかもしれない
 

お伝えしてきたように、お口の中で歯周病菌が引き起こした炎症物質は、血流に乗って全身を巡り、肌の炎症を悪化させる可能性があります。

 

どんなにスキンケアを頑張っても肌荒れが改善しない場合、もしかすると、その原因はお口の環境にあるかもしれません。

 

高価な美容液を追加する前に、まずは基本のオーラルケアを見直してみましょう。肌荒れの原因は一つではありませんが、お口の健康が全身の健康に関わっていることは間違いありません。

 

ポラリス歯科・矯正歯科では、患者さん一人ひとりのライフスタイルまで丁寧にお話を伺い、その方に合ったケアをご提案しています。お口のことで少しでも気になることがございましたら、札幌駅すぐそばのポラリス歯科・矯正歯科へ、どうぞお気軽にご相談ください。

 

参考文献

  • Li B, Ge Y, Cheng L, Zeng C, Xu F, Chen H. Oral bacteria and microbiome in skin inflammatory diseases. Front Cell Infect Microbiol. 2020;10: 581468.
  • 独立行政法人 国立がん研究センター 社会と健康研究センター. 「歯周病と全身の健康」調査報告(概要版), 2021.
  • 日本臨床歯周病学会. 「歯周病と全身疾患の関係」