歯の治療全般
大切な咀嚼とその効能

これまでも様々なコラムでもお伝えしてきたように、お口の健康は、健康寿命と大きく関わっています。特に咀嚼(そしゃく)は食べることと直接関係しており、食べることができなくなれば、健康を損ねることはもちろん、食の楽しみもなくなってしまいます。
何らかのきっかけで噛みにくくなり、咀嚼しづらくなったことを、些細なこととして放置してしまうと、様々な不調が体に現れます。
硬いものを食べるのを避けてしまうことから始まり、食のバリエーションが減る、それに伴って口周りの筋力が衰えるといった症状が現れ、さらに脳への血流が減るなど、全身状態にも悪影響が広がってしまいます。
今回は、そんな大切な咀嚼について、詳しく解説したいと思います。
咀嚼の効能
咀嚼は単に食べ物を噛むだけでなく、様々な働きがあります。以下で具体的に挙げていきましょう。
よく噛む、飲み込みやすくする

よく咀嚼することで、食べ物が細かくなり、飲み込みやすくなります。それによって誤嚥(ごえん:誤って食物や唾液が気管に入ってしまうこと)が減り、特に高齢者は注意すべき誤嚥性肺炎の予防になります。
また、消化酵素の分泌が活発にもなるので、胃腸への負担も少なくなり、脳の満腹中枢が刺激され、食べ過ぎを防ぎ、肥満を予防する効能もあります。
唾液がよく出る

よく咀嚼することで唾液腺が刺激され、唾液の分泌量が増えます。唾液がよく出ると、口腔ジェル・口腔保湿剤の使い方のコラムでも解説したように、お口の乾燥を防ぎ、虫歯や歯周病の予防になるだけでなく、嚥下(えんげ:飲み込むこと)の助けにもなります。
口周りの筋力を維持できる

よく咀嚼すると、舌や咀嚼筋などの口周りの筋肉が鍛えられ、口の中の巧緻性(こうちせい:上手に思い通りに動かすこと)を向上させることができます。
筋肉を鍛えることで、硬い物を食べることができ、食のバリエーションも広がるので、食事を楽しむことができます。
お口まわりの筋力トレーニングについては、総入れ歯についてのコラムでも解説しておりますので、興味のある方は併せてご参照ください。
脳が活性化される

咀嚼することで、歯根膜が刺激されて脳への血流が増えます。その結果、脳が活性化され、認知力や記憶力が増強されるというデータもあります。
そのため、きちんと咀嚼できることは認知症の予防にもつながります。さらに「幸せホルモン」と言われるセロトニンも、咀嚼によって増加します。
味覚が良くなる

味覚は主に舌にある味蕾(みらい)という器官で感じますが、よく咀嚼することで味蕾が刺激され、味わいが増し、美味しさが長続きします。
スポーツでのパフォーマンス向上

皆さんもプロスポーツ選手がしっかりと口を閉じ、噛みしめている姿を見たことがあるでしょう。
深く噛むことは、筋力がアップしたり、重心や姿勢が安定する効果があります。噛むことを意識することは、運動能力の向上にも貢献します。
オーラルフレイルと咀嚼

咀嚼の効能についてお話ししてきましたが、咀嚼と密接に関連するのが、近年話題になり、コラムでも取り上げたオーラルフレイルです。
フレイルは健康と介護の中間である「虚弱」という意味です。日本歯科医師会も警鐘を鳴らすオーラルフレイルとは、コラムでも解説したように、加齢に伴う口腔機能の衰えのことをいいます。
専門的には「口腔状態の変化に、口腔健康への関心の低下や、心身の予備能力の低下も重なって、食べる機能の障害から、フレイル(虚弱)となり、心身の機能低下へとつながる一連の現象および過程」と定義されています。
つまり、お口の健康が失われると、全身の健康にまで害が及ぶという悪循環を意味します。
オーラルフレイルから始まる悪循環

オーラルフレイルの流れをより具体的にお話ししましょう。何らかのきっかけで咀嚼が上手くできなくなることで、以下のような負の流れが生まれてしまいます。
- 食べ物がうまく噛めなくる
- 硬いものを避ける
- 柔らかいもの中心の食生活になる
- 食のバリエーションが減り、舌や口周りの筋力が衰える
- 栄養が偏ってしまう、口腔機能の低下が起きる
- 心身機能などの低下により、全身に悪影響が広がる
オーラルフレイルを放置するとどうなるか
オーラルフレイルを放置すると口腔機能の低下と心身機能の低下につながってしまいます。
口腔機能の低下

- 咀嚼機能がより低下する
- 嚥下機能の低下
- 咬合力(噛み合わせる力)の低下
- 口唇や舌、口周りの筋力の低下
心身機能の低下

- 低栄養
- サルコペニア(加齢による筋力や機能の低下)
- 栄養障害
- 運動障害
- 要介護
上のように咀嚼機能の低下により、様々な悪影響が引き起こされます。オーラルフレイルは、サルコペニア、要介護状態、死亡リスクの上昇にも関わっていることが最近の研究で分かっています。
注意すべき咀嚼できない状態とは

咀嚼できなくなると、オーラルフレイルの進行は一気に進んでしまいます。
- 歯がない箇所がある
- 歯をなくしてしまって放置している
- 噛みにくい歯がある
- 噛むのが億劫になる時がある
上記のような状況があれば、早急に歯の治療をして、噛めるようにしてください。噛めない状態を放置することは絶対に止めましょう。
オーラルフレイル対策のための「あいうべ運動」

オーラルフレイル対策、および口腔機能向上を目的とした、「あいうべ体操」をご紹介します。
大きな動きをしながら、ゆっくり丁寧に「あ~」「い~」「う~」「べ~」の口の形にして10回程度お口を動かしましょう。お口の周りだけでなく顔の筋肉もしっかり動かすようにするのがポイントです。
口の周りの筋肉を鍛えることで、咀嚼力の向上を見込めます。簡単な体操なので、嚙みにくいと感じている人は試してみてください。
咀嚼の大切さを理解してオーラルフレイルへの対策も忘れずに

今回は、咀嚼の大切さについて解説しました。噛みにくくなったと諦めるのではなく、きちんと歯科医師に相談し、日頃はお口周りの体操を行うなどして、口腔機能を活性化させるのが大切だとご理解いただけたかと思います。
気になるオーラルフレイルの対策には、口のささいな衰えに気を付け、定期的に歯科医院での検診を受けるのが重要です。また、バランスのとれた食事を摂ることも忘れないでください。
また、歯がないと噛めなくなり、オーラルフレイルの進行も速くなるので、歯をなくした時は早急に治療をすることをおすすめします。
ポラリス歯科・矯正歯科は、医療法人社団 千仁会の専門医が多く在籍し、治療だけでなく、咀嚼や食生活など、総合的な観点から患者さんのお口の健康をサポートいたします。今回のコラムを読んで気になることやご相談ある方は、お気軽に札幌駅すぐそばのポラリス歯科・矯正歯科にお問い合わせいただければと思います。
以下のコラムで咀嚼や食生活についても触れておりますので、興味のある方は、併せてご参照ください。
- 歯やお口の健康を守るための食生活
- 食事や会話の質を左右する!?~大切な歯茎の役割
- 最近増えている味覚障害や味覚異常、歯科医院で相談した方が良いことも
- 知っておきたい『オーラルフレイル』
- 訪問歯科での口腔ケアの大切さ
参考資料: