常に何かをかじっているネズミの歯はどうなっているの?

ネズミの歯はどうして伸び続けるの?
 

ポラリス歯科・矯正歯科では、様々な歯科治療に関するコラムを連載していますが、専門的な内容も多いため、時には歯に関する雑学にも触れてみたいと思います。

歯に特徴のある動物

突然ですが、皆さんは歯に特徴のある動物といえば、何を思い出すでしょうか?動物園で人気のカピバラもその一つかもしれませんね。温泉に浸かって気持ち良さそうにしている姿など、見ているだけで癒されます。あるいは、森で見かけるリスや、ご家庭でペットとして飼うことも多いハムスターなども、候補に挙がるかもしれません。

 

これらの動物は、常に何かをかじっている姿が印象的です。実は、ネズミの仲間はずっと何かをかじっているのですが、お腹が空いているわけではありません。その理由は前歯にあるんです。

 

今回はそんなネズミの仲間たちの歯の特徴について、人間の歯との違いも踏まえつつ、お話ししたいと思います。

げっ歯類

げっ歯類
 

ネズミは、げっ歯類に分類されます。哺乳類の中で最も種類が多いのが、このげっ歯類と言われています。げっ歯類は漢字では「齧歯類」と書き、「齧」は「かじる」という意味です。

 

ラテン語で「かじる」という意味の言葉(rodens)から、英語のRodentia(げっ歯目)が生まれたと言われます。ネズミがずっと硬い植物をかじっているのが由来になりました。

げっ歯類のトリビア

私たち人間は、口の奥の方に異物を入れるとえずきますよね。これを嘔吐反射といいます。嘔吐反射は、人間だけでなく、他の哺乳類にも出る反応なのですが、げっ歯類には見られないそうです。

 

また、歯に特徴のある動物としては、うさぎも挙げられるかもしれません。たしかに、うさぎもネズミと同じように、食物をずっとかじっています。そのため、うさぎもかつてはネズミと同じげっ歯類に含まれていました。

 

しかし時が経ち、上顎の前歯部の歯の形の違いから、分類が変更されました。現在、うさぎはげっ歯類(げっ歯目)から外されて、兎形目(とけいもく)という別の種類に分類されています。

ネズミの前歯の特徴

ネズミの前歯の構造

人間の歯は、前歯・奥歯問わず、外部が硬いエナメル質、内部がやわらかい象牙質でできています。

歯の構造

ではネズミの前歯も同じかというと、少し違います。歯全体がエナメル質に覆われているのではなく、前側だけがエナメル質で覆われ、裏側は象牙質だけになっています。

 

このため、硬いものをかじり続けると、やわらかい象牙質部分だけが削られ、エナメル質部分が鋭くなり(これを自己鋭利化といいます)、食物を削り取って食べるのに適した形になります。

常生歯・一生歯性

常生歯・一生歯性
 

ネズミの前歯は、常生歯(じょうせいし)と呼ばれます。常生歯とは、一生伸び続ける性質の歯のことです。

 

また、私たち人間の歯は乳歯から永久歯に生え変わりますが、ネズミの歯は生え変わることがありません。このような性質を一生歯性(いっせいしせい)といいます。

 

ちなみに人間や犬は、乳歯から永久歯に生え変わるため二生歯性(にせいしせい)です。さらに、爬虫類のように何度も歯が生え変わるものを多生歯性(たせいしせい)といいます。

 

ネズミの前歯は、一生歯性の常生歯というわけです。ネズミの前歯は、言うなれば私たちの爪と同じように、伸び続けているんですね。

ネズミが何かをかじり続ける理由

ネズミが何かをかじり続ける理由
 

常生歯のお話から想像がつくかもしれませんが、ネズミがずっと硬いものを噛んでいる理由は、歯が伸び続けてしまう性質のためです。

 

硬い繊維質のものを食べたり、かじったりすることで、上下の前歯をこすり、伸び続ける歯を削るのです。ネズミは、人間と違って歯科医院で歯を削ることができませんから、かじることで削っているというわけです。

ネズミの前歯が削られないと…

ではネズミがもし、やわらかい食物ばかり食べている、もしくは硬いものをかじるのを止めてしまうと、どうなるのでしょうか?

 

当然ですが、歯が必要なだけ削られることはなく、どんどん伸びていきます。すると、適切な長さ以上に前歯が伸びてしまいます。この状態を切歯過長(せっしかちょう)といいます。

 

切歯とは前歯の意味ですので、前歯が長過ぎる状態を指します。このようにネズミの前歯が切歯過長になると、歯の先端部分で皮膚を傷つけてしまいます。

 

ひどい場合、前歯が皮膚を貫通することもあり、食物を摂れなくなるだけでなく、傷が化膿することもあります。このため切歯過長になったネズミは、最悪の場合、死んでしまうことも珍しくありません。

ネズミの前歯が欠けると…

ネズミの前歯が欠けると・・・
 

もし、ネズミの前歯の片方だけが、何らかの原因で欠けてしまった場合はどうなるのでしょうか?

 

片方の前歯だけが欠けると、前歯の噛み合わせが悪くなります。すると、硬いものを噛もうとしても、うまく噛み合いません。

 

この場合もやはり歯が十分削られなくなり、切歯過長になってしまいます。前歯が欠けてしまうことは、ネズミにとっては文字通り命の危険性に直結するので、人間以上に重大な事件とも言えるのです。

歯に興味を持っていただくきっかけに

今回は、ずっと何かをかじっているネズミの歯についてお話ししました。げっ歯類の歯の特性についてもご理解いただけたかと思います。

 

もしお子さんから、ネズミやハムスター、うさぎなどの動物が、なぜ硬いものを噛み続けるのか尋ねられた際は、今回のコラムをご参考になさってください。ちょっとしたきっかけでも、小さな頃から歯に興味を持ってもらうのは大切なことです。

 
歯に興味を持っていただくきっかけに
 

もちろん私たち人間は、前歯が欠けたり、虫歯になったりしても、歯科医院で治療できるので、ネズミのように直ちに命に関わることはありません。しかし、だからと言って、歯に対するケアを怠ってしまうのは良くありません。

 

やはり健康的な生活を送るためにも、しっかりと食事が摂れるご自身の歯を大切にしましょう。歯に対する様々な疑問や質問も、お気軽にポラリス歯科・矯正歯科までお伝えいただければと思います。